本研究は、深達性の褥瘡や難治性皮膚潰瘍の治療に使用されている生理活性物質含有軟膏あるいは生理活性物質含有水溶液に代わる新しい人工皮膚(医療用具あるいは医薬品)の開発を目指した基礎研究である。生理活性物質の一つであるジブチリルサイクリツクAMPの水溶液をヒアルロン酸のスポンジに含浸させた創傷被覆材を作成し、ラット背部全層皮膚欠損創に適用して創傷治癒促進効果を調べた。ヒアルロン酸スポンジ単独の場合は、市販の創傷被覆材であるアルギン酸製の創傷被覆材と比較して顕著な創傷治癒促進効果を発現した。ジブチリルサイクリックAMPをヒアルロン酸スポンジに含浸させた場合は、さらに顕著な創傷治癒促進効果を発現した。 次に、生理活性物質として細胞成長因子であるヒト線維芽細胞成長因子(aFGF)の性能評価を行った。ヒト線維芽細胞成長因子がヒト皮膚由来の線維芽細胞の増殖を顕著に促進する最適添加濃度を培養フラスコ内で明らかにした。ヒト線維芽細胞成長因子を含浸させたヒアルロン酸スポンジを使用した臨床試験を行うための予備試験としてラット皮膚由来の線維芽細胞の増殖を顕著に促進する最適添加濃度を培養フラスコ内で明らかにした。そして、ヒト線維芽細胞成長因子を含浸させたヒアルロン酸スポンジをラット背部全層皮膚欠損創に適用して創傷治癒促進効果を調べた。ヒアルロン酸スポンジ単独の場合と比較して、ヒト線維芽細胞成長因子を含浸させた場合には、さらに顕著な創傷治癒促進効果を発現した。 昨年、ヒト線維芽細胞成長因子(bFGF)の水溶液が深達性の褥瘡や難治性皮膚潰瘍の治療薬として市販された。創傷治癒を顕著に促進する製品として注目されている。しかし、水溶液のため有効性分が創傷面に留まることが難しい点が指摘されている。このような観点から、ヒアルロン酸スポンジに含浸させて創傷面に適用する手法は、ヒアルロン酸自身による創傷治癒促進効果と有効成分を創傷面に留めることによる創傷治癒促進効果が期待できる。本研究により、生理活性物質とヒアルロン酸スポンジの組み合わせによる新規の人工皮膚の開発を可能にする基礎データが蓄積できた。
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