人工臓器の石灰化に起因する機能不全は再手術を必要とし、心臓血管外科領域において、異種生体弁、小児の異種心膜を用いた心外導管等の石灰化は未だ大きな問題である。石灰化の機序は、過去において燐酸の局所押しあげというアルカリフォスファターゼ説(1932)、細胞外有機基質の熱力学的なものによるエピタキシー説(1958)があったが、すべてを説明はできなかった。1967年の基質小胞説でコラーゲン細線維が結晶配列に重要な高分子構造であるとし、基質小胞(matrix vesicles)が非生理的石灰化の生体における開始機構に重要であり、さらに基質小胞が石灰化の核になるとされた。バイグリカンでの石灰化の抑制とTGF-βが関係している可能性が示唆されたている。現在、人工臓器分野での非生理的異所性石灰化は遅れているため、まず外科標本のePTFE人工血管の石灰化病変に注目した。さらに動脈硬化性変化として観察される内膜肥厚および石灰化をも研究対象に含めた。摘出した人工血管は肉眼的には石灰化は観察されなかったが、組織標本では年単位の植え込み期間にて血管壁内に石灰化を伴わないマクロファージの侵入が認められ、さらに島状の石灰化が認められた。天然の血管においても石灰化が完成すると、石灰化の中にはもちろん細胞は観察されず、周囲も細胞の密度が低く、毛細血管も少なく、病的な所見が得られる。人工血管およびヒトの動脈硬化においてCD68陽性マクロファージの関与が示唆され、現在、さらにマクロファージとオステオポンチンとの関連性を追求しているところである。
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