研究概要 |
バイオフィードバックは,体外に情報経路を人為的に設定し,その情報をもとに学習を行うことによって,意識上と意識下の情報処理過程を連合する営みであるといえる。ただし,その学習活動が脳内のどこでどのようにして行われているかは現時点では全く不明である。そこでその手がかりを得るひとつの方法として,外界からの情報が皮質レベルばかりではなくより深部の活動とどのように関わっているかをひとつのポイントとしてとりあげ,従来意識上での学習に重要な役割を果たしているといわれる大脳辺縁系活動などとの関係を検討した。この際,脳が一定の情報処理に専念するようなパラダイムとして,異種感覚統合から認知に至るオドボール課題を採用した。具体的には単純な視覚刺激と聴覚刺激を同時に被験者に呈示し,その組み合わせを弁別する作業を課した場合の脳の反応を,脳磁気測定を通じて非侵襲的に計測した。そのデータに対してオフセット調整およびフィルタ処理などのノイズ除去操作を行ったのち,等価電流ダイポール推定を中心とする解析を行い,刺激提示後約80msから350msにかけて1.6ms刻みで各時点の脳の活動部位を推定し,その時間-空間分布から背景にある神経過程の特徴を探った。その結果,大脳皮質活動が活動部位のパターンによって時間的にいくつかの相に分けられること,そしてその相変化の際に帯状回や海馬を含む大脳辺縁系および被殻や尾状核を含む大脳基底核の活動が関与していることなどが見いだされた。この知見は大脳辺縁系や大脳基底核の一部が知覚過程に関与していることを直接示すものであり,意識過程が脳深部から何らかの制御を受けていることを意味している。以上の結果は,今後,バイオフィードバックの脳内過程を探る上での着目点の設定についてひとつの端緒を与えるものといえる。
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