研究概要 |
前年度に引き続き,バイオフィードバックの基礎となる現象の脳内過程を,脳機能計測により調べた。とくに意識上と意識下の相互作用における「気づき」をとりあげ,バイオフィードバックにおける意識変容の成立過程を,奥行き多義ランダムドットによる立体視を利用して,主としてfMRIを用いて計測した。具体的には空間的に周期性をもつ奥行き多義ランダムドットを準備し,網膜像は単一方向的な変化を示すが,主観的には往復運動が感じられる実験状況を創出した。この過程において,被験者は,一度脳内で成立した安定知覚を意図的に解除し,異なった安定状態を再構築する必要に迫られる。したがって,このパラダイムは,従来知覚し得なかった体内状態に対して既成観念を一度打ち破って,気づきに至るバイオフィードバックの学習過程のモデルになりうる。また,この「気づき」の過程を含まない往復立体感を示す画像を別途用意し,両者における脳内活動部位を測定・比較した。その結果,両者に共通な活動部位は,大脳視覚野および頭頂連合野などであった。一方両者で異なった点は,奥行き多義図形を用いた場合に大脳前頭前野の活動が観測されたのに対し,単純往復感の場合は同部位に反応が見られなかった点である。このことから、左右網膜から上行する奥行きに関する情報の抽出過程において,前頭前野の活動が,その解釈に際して本質的な影響を与えていると考えられる。前頭前野の活動は他の高次活動においても見られており,バイオフィードバックの「気づき」の過程においても重要な役割を果たしていることが予想される。以上の結果と,前年度までに得られていた結果とを総合すると,バイオフィードバックの基礎をなす意識下と意識上との相互作用は,大脳における当該感覚情報処理を,大脳前頭前野と辺縁系および基底核が統御することにより成立していることが,脳磁気およびfMRIの測定により示された。
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