生体軟部組織の硬さ(剪断弾性)性状を定量化する目的で、外圧に起因する生体組織内部の変位分布を情報として組織の剪断弾性係数を推定する理論的方法を確立せんとした。まず、生体組織の局所領域での変位が、応力との間に剪断弾性係数をパラメータとして成立すべき構成方程式と力学的平衡式を導出し、有限要素法による定式化を行った。生体組織は非圧縮弾性体であるので、構成方程式において応力を歪の関数として表現することができず、平均垂直応力の決定が問題となる。そこで、支配方程式を解く際に混合近似による有限要素法を使用し、変位に加えて平均垂直応力を独立変数とし、体積係数をパラメータとする弱形式の支配方程式を導いた。さらに、変位分布を情報として生体組織内部の弾性率分布を求める問題では、上記で導出した支配方程式を逆方向に解き、情報として与えられた変位分布を用いてまず平均垂直応力を変位の関数として表現し、その後にこの平均垂直応力を元の支配方程式に代入し、剪断弾性係数を未知変数として解くことで剪断弾性係数の分布を推定する方法を確立した。次いで本方法の妥当性を確認するため、剪断弾性係数が既知である種々の硬さ分布を有する生体組織モデルを想定して、これに任意の様式で3次元的に加圧した一般の触診状況を設定した。この状況のもとで変位分布を計算し、この変位分布を情報として、生体組織の剪断弾性係数分布を再構成する数値実験を行い、測定ノイズを考慮しなければ剪断弾性係数を高精度で推定できることを確認している。 上記の理論的解析に加えて、0〜数H_Zの超低周波機械振動を発生し、加圧用アダプタを介して生体に加え、内部の臓器・組織に生じた微小変位をプローブ用超音波で無侵襲的に計測するシステムを試作している。臨床用電子スキャン超音波断層診断装置(2.5〜5MH_Z)を利用し、包絡線検波をする前のRFエコーを直交検波した信号を取り出し、備品に計上した高速A/Dコンバータを用いて30〜60frame/secでコンピュータに転送し、変位を検出する装置を開発している。
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