研究概要 |
本研究の目的は,日常生活における精神的ストレスの定量計測であり,胃の蠕動運動を利用した精神的ストレス計測の可能性について検討を加えている.「はっと驚く」ような強い一過性のストレスの定量計測に関しては心拍変動が有効であるが,「気分が滅入る」ような比較的弱い慢性のストレスに対しては「食べる気がしない」というように,胃の活動に影響が現れると考えたためである.研究初年度の1999年度には胃電図に着目し,ストレス評価の指標として,胃電図計測が有効であることを示した.本年度は近赤外光に着目し,胃の蠕動運動の計測について検討を加えた.波長700〜900nmの近赤外光は生体組織による散乱が比較的少ないことと吸光係数が低いため光の吸収減衰が少なく,生体を透過しやすい.そのため胃などの生体内の運動現象を計測するのに適していると考えたためである. 実際に赤外線計測システムを製作し,胃の運動(嚥下の反射反応,食後期の蠕動運動)の計測を行った.実験では,まず胃体部での受け入れ弛緩反射を計測した.被験者は6時間以上絶食し,口に多くの飲み物を含む.実験が開始5秒後に口の中の飲み物を一気に飲み下し,その後は体を動かさないこととした.また,胃体部での食後期のほぼ一分に3回起こる蠕動運動を計測した.被験者は10時間以上絶食して,食事をする.食事をした直後とその1時間後に計測を行った.結果は,胃体部における嚥下反射の計測では,胃の体表面からの距離の違いで,胃の蠕動運動に伴う反射強度の変化が計測された.また胃の蠕動運動の計測結果は.食後一時間経過した時点で規則的な運動が観測された.結果として,近赤外光を用いることによって,胃の蠕動運動が計測可能であることが示された.
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