研究概要 |
本研究の目的は,日常生活における精神的ストレスの定量計測であり,胃の蠕動運動を利用した精神的ストレス計測の可能性について検討を加えた.一過性のストレスの定量計測に関しては心拍変動のゆらぎ解析が有効であることが分かっているが、比較的弱い慢性のストレスに対しては胃の活動に影響が現れると考えたためである.研究初年度にはストレス評価の指標として,胃電図計測が有効であることを示し,研究2年度には,近赤外光が胃の蠕動運動が計測可能であることを示した.研究最終年度には,近赤外光による胃の蠕動運動計測方法を改良し,いくつかの実験室的な環境下で精神的なストレスが胃に与える影響の計測を試みた. 近赤外線で胃の動きを計測するためには発光ダイオードを高輝度で発生させる必要があるが,常時発光させるとダイオード自身が高熱となり,火傷の危険性があった.そこで本研究では短時間ダイオードを発光させ,タイミングを合わせて体内からの散乱赤外線をA/D変換器に取り込む方法を検討した.発光部には850nmの近赤外発光ダイオードを20個使用し,これらを1msecの間,0.8Aの電流で発光させた.その結果,皮膚感覚上では全く熱を持たない状態で発光させることが可能となった. 計測システムの開発に引き続いては,実際に被検者に対して,飲水時の胃の反応運動,手を氷水に浸す温度ストレス実験,暗算実験,の3つである.結果は,まず飲水時に胃の受け入れ弛緩による受光輝度の変化が観測でき,本方法によって,胃の蠕動運動が計測できることが明かとなった.温度ストレス実験,暗算負荷実験に関しては,被検者によって反応が異なるものの,ストレス性と思われる胃の異常な収縮現象が確認でき,胃の運動計測がストレス評価の指標となりうることが示された. 今後,更に日常生活に入り込んで胃の動きを計測するための,発光部,受光部の装着方法の検討,長期計測方法の検討が必要である.
|