視覚心理現象の一つである仮現運動を対象として、その運動知覚特性を明らかにし、仮現運動知覚に関連する脳内電気活動を検討した。 仮現運動刺激の連続的提示によって生起するブレークダウン特性に影響を与える主な刺激要因は刺激間の空間距離と刺激の往復周波数であり、刺激の空間距離が大きくなるにつれて運動知覚区間は減少しブレークダウンが生じやすいこと、刺激の往復周波数は2Hzと3Hzの範囲では運動が知覚されやすいことがわかった。運動知覚が得られない2点同時刺激に対する応答は、左右後頭部でほとんど差異はみられなかったが、運動知覚時には、右後頭部から右側頭部にわたる領域で優位な陽性電位が認められた。 この電位分布を発生させる脳内電源の局在推定を行うため、仮現運動刺激の単発的提示に対する脳磁図を計測し、電源位置の軌跡を求めた。その結果、仮現運動知覚に関連した電源が刺激提示後の潜時180msec近傍において視覚野の外有線皮質に推定された。この外有線皮質には運動刺激に応答する運動関連ニューロンが大多数を占めるMT野が存在しており、この領域を含んだ部位の活動が脳磁図に反映されたものであることがわかった。この電源位置は時間の経過につれて外有線皮質から、側方かつ深部の方へ移動していた。仮現運動刺激の提示によって、外有線皮質内の運動関連ニューロンが活性化された後、運動の認知に関する上位処理が側頭葉内側で行われている可能性が示された。 連続往復提示における運動知覚状態と運動消失状態のそれぞれの区間における定常誘発電位については、現時点では有意な差は見出されなかった。これは電源の深さやその方向のために、脳波では検出できなかったものと思われる。今後はfMRIによる検討も考慮する必要がある。
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