磁気共鳴力顕微鏡による蛋白質構造のマイクロイメージングの実現のための第一歩として、走査型プローブ顕微鏡の磁気力測定法の検出感度、性能限界の評価検討をおこなった。単純化したモデルによる解析から磁性プローブと常磁性分子ならびに常磁性分子ドメイン間に働く力を評価し、検出の可能性について検討した。同時に磁気力顕微鏡による常磁性分子の検出について(1)ヒト赤血球そのもの、(2)常磁性酸化鉄を含む蛋白質であるフェリチン、(3)活性中心に鉄イオンをもつ酸化還元酵素チトクロムC、それぞれについて実験的に評価検討をおこなった。測定は走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ製SPI-3800)の位相モードによる磁気力測定を使用し、磁化した磁性カンチレバーのみを用いる場合と、約0.1Tのバイアス磁界を印可した場合について測定した。なおバイアス磁界はプローブ顕微鏡のピエゾアクチュエータの試料台にNdBFe磁石を固定することにより実現した。赤血球については、内部のヘモグロビンが酸素化状態と高スピンメト化状態の場合それぞれを測定した。フェリチンについては常磁性酸化鉄を含むフェリチンと、酸化鉄を含まないアポフェリチンの磁気力像を比較した。チトクロムCについては導電性透明電極(ITO)上ないしはITO上に作製されたポリアニリン膜に吸着させたチトクルムCを電極電位により酸化状態と還元状態にした場合それぞれを比較した。ヒト赤血球については磁性の影響が含まれると考えられる像が得られたが、表面形状の影響が大きく明確な磁気像を得るには至っていない。フェリチン、アポフェリチン、チトクロムC、ともに蛋白質の1つ1つが確認できる像が得られたが、常磁性粒子の存在を磁気力像として捉えるまでの解像度が得られなかった。
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