カガヤン河下流域の考古学調査-狩猟採集民と農耕民の相互依存関係の歴史過程の解明-

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11691012
• 研究機関: 東京外国語大学
• 研究代表者: 小川 英文 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (20214025)
• 研究分担者: 松村 博文 国立科学博物館, 人類研究部, 研究官 (70209617) ; 小池 裕子 九州大学, 大学院, 教授 (40107462) ; 青柳 洋治 上智大学, 外国語学部, 教授 (60146800)
• キーワード: ラロ貝塚群 / 狩猟採集社会 / 農耕社会 / 放射性炭素年代測定 / 安定同位体分析 / 古食餌分析 / 水田址検出 / 地域的編年体系

研究概要

本研究は、フィリピン、北部ルソン島カガヤン河下流域40kmにわたって点在する東南アジア最大規模の貝塚遺跡であるラロ貝塚遺跡群及び後背地の洞穴遺跡群の発掘調査をとうして、先史狩猟採集社会と農耕社会との相互依存関係の歴史過程を解明することを目的としている。そのためラロ地域の遺跡全体を総合的に調査し、時代ごとに遺跡間の関係を明らかにする調査を実施してきた。今年度および最終年度としての調査・研究成果は以下の通りである。
1.昨年度に続き、未発掘の貝塚調査を続行した。カガヤン河両岸の河岸段丘上に立地する貝塚5ヶ所、内陸貝塚1ヶ所の発掘調査を行い、当該地域編年体系確立のための基礎資料を得ることができた。
2.カガヤン河西岸サンロレンゾ貝塚において900m^2の発掘調査を継続し貝廃棄、貝塚形成過程パターンに関する基礎的資料を得ることができた。また3期にわたる墓葬を確認しそれぞれ異なる埋葬形式を明らかにした。
3.貝塚遺跡分布調査を調査地域の南へとのばし、あらたに無文赤色スリップ土器を出土する遺跡と、陶磁器・土器を副葬する墓地遺跡を確認することができ、ラロ貝塚群と同時期に営まれた遺跡の広がりを捉えることができた。
4.各遺跡から得られた人骨・動物骨・炭化物資料の放射性炭素年代測定と安定同位体による古食餌分析を、九州大・福岡大・名古屋大の協力により実施した。これら分析資料の採取にあたっては専門家が発掘調査自体に参加し、現場で測定資料の選別を行うことによって、より精緻な測定結果を得ることが可能となった。
5.先史貝採集社会の生業基盤復元のために水田址調査を行った。そのため弥生時代水田址調査の経験を持つ専門家が参加し、3ヶ所で複数枚の水田面を検出した。さらに各水田面からイネのプラントオパールを採取し、分析中である。
6.科研調査最終年度にあたり過去の調査資料を総合して土器による地域的編年体系試案をまとめ、低地貝塚遺跡と高地洞穴遺跡との時代的関係解明に資すると同時に両者の相互関係を具体的に遺物によって関連づけた。

研究成果

• [文献書誌] 三原正三, 奥野充, 小川英文, 田中和彦, 中村俊夫, 小池裕子: "フィリピン・カガヤン河貝塚群出土遺物のAMS^<14>C年代"名古屋大学加速器質量分析計業績報告書. 12. 205-213 (2001)
• [文献書誌] De la Torre, A.: "Preliminary Report of the Lal-lo, Cagayan, Archaeology Project: Clemente Irigayen Property Site (II-1995-O), Santa Maria, Lal-lo, Cagayan"東南アジア考古学. 20. 67-110 (2000)
• [文献書誌] 三原正三, 奥野充, 小川英文, 田中和彦, 中村俊夫, 小池裕子: "フィリピン・カガヤン河貝塚群出土遺物のAMS^<14>C年代"名古屋大学加速器質量分析計業務報告書. 12. 205-213 (2001)
• [文献書誌] 小川英文: "ラロ貝塚群の発掘調査とその年代"名古屋大学加速器質量分析計業務報告(XII). 12. 6-16 (2001)
• [文献書誌] De la Torre, A.: "Preliminary Report of the Lal-lo, Cagayan, Archaeology Project : Clemente Irigayen Property Site (II-1995-O), Santa Maria, Lal-lo, Cagayan"東南アジア考古学. 20. 67-110 (2000)
• [文献書誌] Garong, A.M.: "Culture in Trash. An Archaeological Excavation of Conciso Property Shell Midden Site, Catayauan, Lal-lo, Cagayan Valley, Northern Philippines"東南アジア考古学. 21. 120-145 (2001)
• [文献書誌] 青柳洋治: "「黒潮文化」『海のアジア』6"岩波書店. 15 (2001)
• [文献書誌] 田中和彦: "「フィリピン、ルソン島北部の土器」『東南アジア考古学最前線』34-35"クバプロ. 12 (2002)
• [文献書誌] 小川英文: "「フィリピン、ラロ貝塚での人びとの暮らし」『東南アジア考古学最前線』22-23"クバプロ. 12 (2002)
• [文献書誌] 青柳洋治: "「クメールとチャンパの陶磁器-生産と流通」『東南アジア考古学最前線』120-128"クバプロ. 9 (2002)