1 ラオスにおいては、前年度に続き、ラオス情報文化省・ラオス国立図書館所蔵の「ラーオ写本保存プログラム」に依拠した情報収集を行うと同時に、ムアンシンにおけるタイ・ルー文字写本をめぐる状況について現地調査をした。それにより、ムアンシンでは、(1)写本文化とも言うべき人々と写本との関わりが、精神面でも物質面でも今なお強く息づいていること、(2)タイ・ヌア人がタイ・ヌア写本だけでなくルー写本を含めた写本文化の重要な担い手であること、などが明らかになった。 2 中国(シプソンパンナー)の写本に関しては、前年度に収集したタイ・ルー文字(タム文字)写本のデータをタイ国文字に翻字して表にまとめた。重要と思われる写本のいくつかはデジタルカメラで撮影した。一方で、写本をめぐる状況について現地調査も行った。1950年代の調査の報告書中に漢字表記されたタイ・ルー語の原語確認は、全12冊分が一応完了したが、不明のものが多いため引き続き調査を行う必要がある。 表の分析および現地調査の結果からは、以下のことが言える。(1)文革期以前の写本は、寺院や個人所有のものの大部分が失われたが、公的機関に所蔵されていたものは残っていること、(2)経済状態のよい近年、ターンタム(「タム」=写本の奉納)儀礼が大々的に行われており、その際、奉納を行う家族数分の写本が僧侶の手によって筆写され寺院に納められること。(3)個人レベルでも写本の貸し借り、筆写、執筆が盛んに行われていること、などである。 3 ムアンシンとシプソンパンナーとで共通するのは、写本の寺院への奉納が積徳行為として盛んに行われていること、個人レベルで民家に保管される写本が多く見られることである。それぞれ独自の特徴としては、シプソンパンナーでは一度はほとんど失われた写本が現在盛んに筆写されてその数を増しつつあること、ムアンシンでは写本の筆写に関わるタイ・ヌア人の役割が大きいこと、などが挙げられよう。
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