研究課題
基盤研究(B)
今年度は研究分担者(7名)が2班に分かれ、ソウル(韓国)を訪れて韓国における手話事情調査を実施した。韓国の障害者福祉立法は1989年に制定され、その歴史はまだ浅い。立法内容および行政機構のあり方は日本をモデルにしたようである。韓国における聴覚障害者の情報保障に対する考え方は、いくつかの点で日本より優れている。たとえば、上記福祉法では、テレビ局がニュースや国家的主要事項の中継をする際には、手話通訳または字幕を付けるよう、放送局の長に対して要請することができると定めている。また、韓国ろうあ者協会が手話通訳士の全国統一試験を実施しているのも日本との大きな違いである。日本では厚生省が実施しており、全日本ろうあ連盟には主導権が与えられていない。聴覚障害児教育に関しては、音声言語優位の教育法がまだ払拭されていないが、カトリック教会が運営する私立ろう学校では徐々に手話教育に切り替えつつある。韓国では1999年から2003年を特殊教育5ヶ年とし、障害者の教育を受ける権利を保障すること、教育の質を高めること、支援体制と学習環境を整えること、という3つの目標を掲げている。手話に関する言語学的研究も少しずつ進められ、1996年には韓国手話研究会が発足した。日本ではこの種の学会や研究会に、ろう学校の教員が加わることはめずらしいが、韓国手話研究会には健聴のろう学校教員が主たるメンバーとして加わっている。今回の調査では、合計5名の聴覚障害者を被験者に、韓国の手話をビデオ収録した。韓国の手話は、日韓の歴史的背景のもと、多くの部分で日本手話と共通する表現が多い。しかし、最近では韓国独自の手話表現が多く取り入れられるように。今後、韓国手話はその独自性を増していくものと思われる。