研究概要 |
1990年代半ば以後,市場化の加速が進む中で,中国農村部の経済発展を担った郷鎮企業を取り巻く外部環境は激しく変化しつつある。こうした中で,郷鎮企業と地方政府との間の曖昧な所有関係に抜本的な改革が必要であるとする議論がにわかに浮上してきた。本研究では,「社区」(地域コミュニティ)と一体化しながら農村部の市場化を牽引した郷鎮企業の発展に焦点を当てた。 平成11年度は,われわれが平成4年度〜5年度に実施した調査結果を踏まえ,江蘇省南部地域において企業への訪問調査とアンケート調査(委託)を実施した。調査の主たる目的は,当該地域の時系列での変化に注目して,「社区」の役割変化,郷鎮企業の経営メカニズムの転換,企業経営者層の生成と発展についての現状を明らかにすることである。アンケート調査の結果については現在データ入力中であるが,訪問調査等から得られた新たな知見と平成12年度の研究目標は以下の3点にまとめることができる。 1.平成11年度の調査対象となった江蘇省南部地域では,本格的な所有権改革が急進展しており,ほとんどの郷鎮企業が私有企業やそれに準じた企業形態に転換した。株式合作制企業への転換はごく少数にとどまった。 2.地方政府と企業経営者とは,制度上はまったく無関係となったものの,現時点ではまだ地方政府の幹部は郷鎮企業の経営への影響力を保持している。 3.平成12年度は浙江省温州地域において今年度と同様のアンケート調査を実施する予定であるが,両地域の調査結果を総合してはじめて,中国農村における市場化の到達点,地域的差異を明確にできる。
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