研究概要 |
本研究は,平成4年度〜5年度に行った文部省科学研究費補助金・国際学術研究(中国農村における市場の形成についての研究-市場経済・命令経済・慣習経済の機能メカニズム)の継続調査である。われわれの意図は,一定の資料,データの蓄積があり,現地幹部との関係が保持された地域を再訪し,市場化の加速に伴ってこの6年間に生じたと思われる構造変動の具体的内容を,主に郷鎮企業の市場化への対応という観点から実証的に検討することにあった。平成11年度は,江蘇省呉江市においてアンケート調査を実施し,平成12年度は,浙江省温州市において同様の聞き取り調査とアンケート調査を実施した。アンケート調査と訪問調査によって得られた新たな知見は次の通りである。 1.農村地域における市場化は急進展しており,江蘇省南部地域でも浙江省温州地域でも,ほとんどの郷鎮企業は集団所有企業から私営企業などに転換している。温州地域の企業の方が蘇南地域のそれに比較して早い時期から制度改革を実施しており,企業内部の統治構造がより規範化されている。 2.アンケート調査の結果によれば,私営企業への転換によって政府と企業との関係は制度上無関係となったが,地元での雇用拡大,地元での公共事業の実施などの面で,地方政府は郷鎮企業の経営に対して一定の影響力を保持している。 3.成功した温州私営企業の聞き取り調査から,(1)企業合併を通じた企業規模拡大,(2)明確なブランド戦略,(3)全国展開した販売ネットワーク,(4)上海など国内他地域への進出といった点に、共通した特徴が見られた。
|