研究概要 |
国際シンポジウムを横浜市立大学と共同で開催する事ができ,われわれの科研費グループは「ヨーロッパ統合の歴史と21世紀のアジア-アジア統合における日本の課題は何か-」を担当した。その主要な成果として、1.国民的(ナショナル)アイデンティティと地域的(リージョナル)アイデンティティ、すなわちヨーロッパ・アイデンティティやアジア・アイデンティティとが原理的に矛盾するものではないことが明らかにされた。国民的アイデンティティを包み込んだ広域的アイデンティティの形成が可能であることを示すのが,ヨーロッパ統合の歴史だということができる。その基礎には,市民生活の隅々まで浸透する社会的接近,社会的生活条件の収斂があることが確認された。と同時に,ヨーロッパもまだまだヨーロッパ・アイデンティティの強靭化のために大きな課題を抱えていることが明確になった。2.日本とアジアとの比較で言えば、ヨーロッパ連合の諸国は,旧ソ連東欧地域との地域的統合・地域的連帯と言う大きな課題を抱えている。その点では日本がアジアにおいて直面している課題と同じ課題にヨーロッパ連合とその加盟諸国も直面している。EUの東方拡大の課題と難問は日本とアジアの地域的統合の課題と難問と類似している。3.そこで,知識人の役割が重要となる。その点でヨーロッパ共同体歴史家会議の代表的研究者の報告は深く味わうべき問題提起となっていた。冷戦体制下では、知識人が情熱を傾ける普遍性を地域統合が欠いていた。冷戦体制崩壊後の21世紀こそ、まさに知識人の普遍的使命感が大きな意味を持ってくる。グロバリゼーションとナショナリズムとの間にある不可欠な中間項としてのリージョナリズム(地域主義)、排他的でないリージョナリズム、建設的リージョナリズムが21世紀の課題となることが示された。
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