インドネシアでは昨年6月に総選挙が行われたが、これに関わる情報の流れを、ジョクジャカルタ特別州ウォノレロ村で選挙前と選挙後に集中的に調査した。村落内の政治構造とメディアやパーソナル・コミュニケーションとの関わりが、ポスト・スハルト体制下でどのように顕現してきているかを、アンケート調査や面接調査を通して明らかにすることを試みた。 調査結果は未だ整理中であるが、民主的な選挙を実現しようという意図は概ね達成されたとみてよい。また、選挙法の規定も手伝ってか、世代間の政治に対する価値観の違いや政党支持のスタンスの違いを見ることができた。だが、その一方で、情報伝達や実際の政党選択に果たすイスラム教組織の役割の急浮上が観察された。したがって、今回の選挙では、開発体制下に育成された動員のメカニズムは十分には働かなかったと見ている。なお、比較のために同様の調査をジャカルタ首都特別市のレンテンアグン地域の都市カンポンで行った。 このほか8月の調査では、調査地における各種会合への参与観察を行ったほか、親族関係を徹底して調査することにより当該社会の親族ネットワークの構造を明らかにすることに努めた。内婚率が極めて高く、村落政治のシステムが血縁のネットワークによって支えられることがわかった。 また、村では生活時間調査を2週間にわたって行い、生活時間に占める住民の情報行動を質的に調査することができた。一方、テレビ・ニュースを中心として録画を行い、現在、その内容分析を継続中である。とくに総選挙前後の報道について集中的に調査したほか、選挙広報CFに注目した整理検討も行った。そのほかに10月の大統領選挙に関する住民の意識調査も、ウォノレロ村とレンテンアグン地域の双方において実施した。
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