我が国(国立環境研究所ならびに中央大学理工学部)と英国シェフィールド大学環境分析化学研究室ならびにノルウェーエネルギー研究所Pollution Technology研究室を中心とする国際共同研究を開始した。シェフィールド大学との研究では郊外のナショナルトラストの管理するブナ林の病害のため伐採された樹齢約150年のブナに含まれる連続入皮に注目し、過去90年にわたる環境汚染の歴史をレーザーアブレーションICP-MS法を用いて解明した。その結果、重金属等による汚染が過去90年間引続いており、特に第二次世界大戦中の汚染が最もはなはだしいことが明らかとなった.このような樹木入皮を用いた環境汚染のモニタリングは英国では高い評価を受け、1999年には英国Royal Societyが全サイエンスの分野から選ぶ約20の研究のひとつ(New frontiers in science)に選ばれ、"A century of air pollution-recorded in tree barkpockets"というタイトルのもとRoyal Societyで発表を行なった。その内容についてはTimes、BBC、New Scientist等の取材を受けNew Scientist誌には"The Smog of War"として紹介された。この他英国との共同研究では、英国西南部のシリ-諸島においてバックグラウンド測定用の樹皮のサンプリングを行なった。 ノルウェーエネルギー研究所との共同研究ではノルウェー中部スウェーデンとの国境に近くのロロス鉱山(この鉱山は19世紀以降ノルウェーの軍需産業の発展と共に採掘、精錬が拡大し、このため周囲の山林が大被害を受けたことで知られる)に出かけ、ロロス市及び製材所の協力を得て樹齢約100年の松より入皮のサンプリングを行った。この試料については、ノルウェーエネルギー研究所において凍結保存し、次年度佐竹が同国を訪れ、高精度質量分析装置及び中性子放射化分析用の試料として調整し分析を行なう予定となっている。またノルウェーでは森林研究所において樹木入皮についての講演を行ったところ、全くオリジナルなアイディアに基づく興味深い研究として注目を集め、試料の収集、前処理等について協力が得られることとなった。
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