本研究は、東南アジアで流行している犬からの狂犬病ウイルスを分子遺伝学的に解析し、その感染環を明らかにすることと野生動物からリッサウイルスの遺伝子を検出し、リッサウイルスの侵淫状況を調査し、その成果を狂犬病並びにリッサウイルス感染症の防疫に役立てることである。1年目はタイ、2年目はインドネシアでそれぞれウイルス遺伝子を多数収集し、以下の成績を得た。 1.タイ北部、中部、南部で流行している狂犬病ウィルスは、N遺伝子の解析からおよそ2大別され、さらに6つに細分化された。 2.各地域独自のタイプと、北部と中部及び南部と中部にそれぞれ共通のタイプがあり、首都バンコクには種々のタイプが集まっていた。 3.タイ東北部におけるウイルスは、他の地域と類似していたが、同じものはなく4つに分類された。そのうちの一部はラオス国境に集中していた。 4.タイ4地域で流行しているウイルスのG遺伝子の解析から、それらのG蛋白質の推定アミノ酸は、4地域間で高い相同性を示したが、日本の動物用ワクチンとでは88〜89%であった。 5.タイ南部における野生のネズミ及びコウモリそれぞれ50例からリッサウイルス遺伝子の検出を試みたが、全て陰性であった。 6.現在、インドネシアの各地から収集した140例の狂犬病ウイルスの遺伝子解析を進めている。 以上の結果から、N遺伝子の解析により、タイにおける狂犬病ウイルスの動態の一部を明らかにすることが出来た。また、G遺伝子の解析は、有効なワクチン開発の基礎データーとなる。今後、この調査の継続は、東南アジア諸国のみならず日本の狂犬病防疫対策にとっても必要である。
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