本研究の目的は、推定HIV感染者数が世界最大とされているインドと、その隣国にあって近年、国際社会に大きな影響を及ぼしているにも拘わらず、HIVの情報に乏しいイスラム国パキスタンを中心に、HIVの遺伝学的特徴を明確にし、その地域特性や伝搬経路を解析することによって、ワクチン開発などHIV対策を考える上での重要な基礎情報を提供することにある。 これまでの我々の調査で、インド北部においてはB型が多くみられ、C型が多くアフリカからの伝搬が考えられるインド南部に対し、B型の多いタイやミャンマーの麻薬静注射者からインド北東部内陸を経て、HIVが伝搬された可能性が示唆されていた。そこで今年度、インド北東部に位置し、ミャンマーと国境を同じくするインド・マニープル州の麻薬静注射者を対象に遺伝学的調査を行い、タイやミャンマーにおけるこれらのウイルスと遺伝子学的相同性を調べ関連を検討した。その結果、インド北東部のHIV感染麻薬静注射者に広がるHIVは遺伝子的にタイ、ミャンマーのそれと異なる事がみとめられた。さらに件数を重ね、詳細に伝搬様式を検討する予定である。 また、パキスタンのHIVハイリスクグループである男性売春者集団(ヒジュラ)200例におけるHIVの抗体価を調べた結果、全て陰性であったが、性感染症の1つであるクラミジアIgG抗体は85%陽性と高率であり、いったんこの集団にHIVが入れば急速に広がる危険性が示された。
|