本研究の目的は、推定HIV感染者数が世界最大とされているインドと、その隣国にあって近年、国際社会に大きな影響を及ぼしているにも拘わらず、HIVの情報に乏しいイスラム国パキスタンを中心に、HIVの遺伝学的特徴を明確にし、その地域特性や伝搬経路を解析することによって、ワクチン開発などHIV対策を考える上での重要な基礎情報を提供することにある。これまでの我々の調査で、インド北部においてはB型が多くみられ、C型が多くアフリカからの伝搬が考えられるインド南部に対し、B型の多いタイやミャンマーの麻薬静注射者からインド北東部内陸を経て、HIVが伝搬された可能性が示唆されていた。 そこで11年度は、インド北東部に位置し、ミャンマーと国境を同じくするインド・マニプール州の麻薬静注射者を対象に、タイやミャンマーにおけるこれらのウイルスと遺伝子学的相同性を調べ関連を検討した。その結果、インド北東部のHIV感染麻薬静注射者に広がるHIVは遺伝子的にタイ、ミャンマーのそれと異なる事がみとめられた。 12年度は、パキスタンに在住するHIV感染者についてその遺伝型を初めて解析し、パキスタンにおけるHIVの遺伝学的特徴を検討した。すなわち、感染者13例のうち、7例はB型で、2例にA型とB型の混合感染が見られ、C型が3例、E型が1例みられた。パキスタンでは男性が単身で大都市やペルシャ湾岸諸国に働きに出かける事が多く、約400万人のパキスタン人が海外で働いているといわれている。一方で、ペルシャ湾岸諸国には東南アジアからの女性出稼ぎ労働者も多く、今回解析したHIV感染者13例のうち、9例が湾岸諸国で感染したとされ、さらに、7例のB型について、他の地域のB型との関連性を検討すると、1例はアフリカ型であったが、残り6例はタイやミャンマーでみられるB型とは異なり、欧米型と相同性がみられた。このことは欧米型のサブタイプBが流行している東南アジア地域からの出稼ぎ労働者との接触による感染を示唆するものである。
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