1) 本研究の目的は、研究代表者が近年に現地調査によって蒐集した、ヴェーダ・ヴァードゥーラ学派の祭式文献の写本資料を整理・検討して、同学派文献の現存文献の類目の概要を明らかにするとともに、同派のヴェーダ時代に成立した重要根本文献の内容を新出写本を用いて研究し、その成果を国際学界に提示することにある。 2) 同派の重要根本文献とされるものは、およそ紀元前600年から紀元前300年の間に成立したシュラウタスートラ、グリヒアスートラ、ブラーフマナである。予備的考察により、これら諸文献の新出写本は質量ともに既出写本を遥かに凌ぐレベルのものと判明した。諸写本を総合した新たな批判刊本を作成する作業が進行中である。 3) 基礎作業として、重要写本を解読し、コンピュータ上で解析可能な電子テクストの入力作業はほぼ終了し、既にその一部は世界の第一線の研究者に配付されている。後期ヴェーダ文献の重要研究資料として、研究史上、従来の研究水準を遥かに凌ぐレベルの新資料として学界に歓迎され、大きな反響を呼んでいる。 4) 上記基本文献のうち、本研究後半では特にブラーフマナ文献(=ヴァードゥーラ・アンヴァーキヤーナ)に焦点をあてて研究を進めた。本文献は、その文法・語彙などに他文献に見られない特色を持ち、言語史的に注目されるが、同時に、内容上ヴェーダ後期の宗教思想史の展開上に重要な位置を占めている。新資料に基づく当文献の正確な学界への紹介は、ヴェーダ研究・インド思想史研究のうえで重要な貢献となる。 5) 上記の研究に基づいて、本研究の報告では、新資料を含めた写本研究により「ヴァードゥーラ・アンヴァーキヤーナ」の批判テクストを提示するとともに、その第一章「アグニアーデーヤ(シュラウタ祭式火壇の構築儀礼)」の翻訳・訳注を提出して学界の要請に応えることとした。本文献への国際的な関心に対応するために翻訳・訳注は英語で提示することとした。
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