1997年の7月、タイでの通貨危機にその発端のある東アジアの金融、経済危機は、約2年半を経過した現在までにほぼその直接の影響はほぼ終焉し、事実この金融危機を経験した諸国は高度の経済成長を達成するまでに回復してきている。この経済危機は基本的にはマクロ経済学的な「通貨」ないし「金融」危機として理解すべきであろうという主張の根拠がここにある。ただし、このマクロ経済的な混乱が産業、企業といったミクロの経済単位とどういう関係があるかについては、まだ研究が積み重ねられていない。 この「東アジア諸国の主要産業の国際競争力への通貨危機の長期的影響」の国際共同研究はこの問題を解明するために組織されたものであり、1999年度においてはその基礎的な問題がそれぞれの研究者によって分析された。現在の段階で明らかになったことは、どの経済においてもこの金融危機はたんにマクロ経済に対してではなく、政府の産業政策と産業、企業の競争構造といったミクロ経済一般に広範な影響を及ぼしたことが分かった。特に個別企業ないし企業集団に関しては、それらのガバナンス、成長戦略および経営組織全般にわたって根本的な変革が行われていることが注目すべきである。 このような広い意味でのAmericanizationとも呼びうる改革は、単にそれぞれの経済において重要な意味を持つだけではなく、所謂「東アジアの経済的奇跡」に寄与したとされる政策的、経済的、経営的特質のほぼすべてが再検討の対象とされていることを意味する。この国際共同研究の2年度は、各研究者が個別研究の成果を比較することによって、それぞれの経済の特質を明らかにし、それによってその経済における企業の国際競争力の成長を分析することを意図している。なお、この国際共同研究の成果は2001年春の国際研究集会で一般に公開されることになっている。
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