本プロジェクトが研究対象としたいわゆる「アジアの経済危機」は、特に正統派の多くの経済学者の予想に反して、約2年間で少なくとも表面的には収束したかのように見える。特にマクロ経済的には、この金融危機の影響を強く受けた諸国のうちには以前のような高い経済成長の達成を実現している経済もいくつか存在する。すなわち、かつて「東アジアの奇跡」と呼ばれた経済発展のイメージは色褪せたものの、韓国、台湾、香港といった経済は依然として根強い成長性を保持していると考えられる。 このようなマクロ経済的な成長、復興の原因と考えられる要因として、企業、産業といったミクロ経済レベルでの制度的要因が存在し、それらが近年大きく変化をしてきている。特に開発途上経済のシステムのうちで世界銀行、IMFから強く批判を浴びた企業統治のあり方は、このプロジェクトの対象である韓国、台湾を含めた東アジア経済において近年大きな変化を経験した。すなわち、かつてのような人脈を基礎としたり、企業間の連携をもとにした広い意味での系列融資はその割合を減少させ、市場メカニズムに依存する形での株式、負債金融が重要性を増した。それによって、日本経済において現在進行しているように、単に企業金融の諸側面が影響を受けただけではなく、企業の組織、管理、企業間取引等の広い範囲において企業経営の基礎が変化したと考えられる。今後は、この意味でかつてのように企業経営をのみ研究対象とするとか、あるいは現在のファッションである企業統治に焦点を当てるのではなく、この両側面を統合した研究が必要になると思われる。
|