研究概要 |
本年度は、昨年度までの成果を受けて、感情的発話の理解に際して、日本、フィリピンなどの高コンテクスト文化では、語調の情報が言語情報より優先的に処理されるが、アメリカなど低コンテクスト文化では語調情報より言語情報が優先的に処理されるとする仮説をより精緻に検討し、ストループ課題、プライミング課題などを用いて証拠を得た。ここでの成果の一部はすでに、Cognition & Emotion (Kitayama & Ishii,2002)、認知科学(Ishii & Kitayama,2002)、Psychological Science (Ishii, Reyes, & Kitayama, in press)などに発表されている。同時に、ここでの過去3年の成果を受けて、本年度われわれは、同様の分析を注意と認知の領域にも適用し、いくつかの知見を得てきた。第1に、発話の言語的内容から発話意図を直接的に推論する、いわゆる対応バイアスは欧米で非常に強くみられる。しかもこの現象は、言語内容から発話意図を推論することの妥当性が著しく疑わしい場合においてすらみられる。これは、欧米人の発話情報処理が言語情報に注目しているというわれわれに分析に一致した結果である。これに対して、日本人は背景情報により注目すると考えられる。ここでの分析に一致して、われわれは、この対応バイアスは、少なくとも言語内容が発話意図を必ずして明示的に示唆していない場合には、日本人の間ではほぼ消失することは一連の研究で示した。ここでの成果は欧米の一流ジャーナルで現在審査中である(Masuda & Kitayama,2002; Miyamoto & Kitayama,2002)。第2に、われわれは同様の可能性を幾何学図形を刺激に検証してきている。具体的には、四角形の中にかかれた線分を別の四角形の中に新たに引くという課題を用い、ここでの成績(正確さ)が新たに引く線分の長さが当該の四角形の高さとの比によって定義されているか(相対課題)、絶対的長さによって定義されているか(絶対課題)により異なることを示した。アメリカ人被験者の成績は絶対課題においてよりよいが、日本人被験者の成績は相対課題においてよりよい。この結果は、アメリカ人は周辺情報を無視することに長けている日本人は周辺情報を取り入れることに長けていることを示している。この結果も現在、欧米一流誌で審査中である(Kitayama, Duffy, & Kawamura,2002)。
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