本研究では、感情発話の情報処理に焦点をあてて、日本とアメリカの間に存在すると予想される数々の心理的差異を綿密に計画された実験的手法を用いて検討し、同時に、そこから示唆されたいくつもの認知プロセスの文化差もあわせて検討した。ここで得られてきた実証的知見は、近年Nisbettらにより提唱されている分析的・包括的情報処理の区別に大筋において対応すると言ってよい。全般的にみて、アメリカ文化に関わって生きている人々は、対象に注目した「分析的傾向」を、日本文化に関わって生きている人々は、コンテクストにも注意を向ける「包括的傾向」を育んでいる。まず第1に、感情的発話の処理に関しては、この一般的仮説は、英語の情報処理における言語内容の優先性、日本語の処理における語調情報の優先性という現象においてみられることをわれわれは見いだした。本研究では、この現象を、ストループ効果という自発的注意の指標、プライミング法という自動的情報処理の指標を用いて実証した。本研究ではまた、言語と文化の相互関係、認識の文化差の分散と可塑性についても今後の課題を示すことができた。第2に、認知的情報処理に関しては、分析的・包括的情報処理の仮説に一致して、幾何学図形の処理に関しても、アメリカ人は焦点となる物体に自動的に注目し、その情報を取り込むが、日本人はその物体を取り巻く枠組みにより敏感であることを示した。さらに同様の現象は社会的認知の場においてもみられることを態度推測についての一連の日米比較研究を通じて示した。
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