研究概要 |
この研究は,21世紀のアジアと日本の経済関係を展望する研究の出発点として中国経済圏に焦点をあてて分析し,中国経済の問題点と課題を明らかにすると共に,日本政府と日本企業の果たす役割を提言する目的をもつものである。 中国経済が長い間,社会主義計画経済を指向していた時期に,中国東北地域(遼寧,吉林,黒龍江の三省)は多数の国有大中型企業を擁して,エネルギー,素材,機械など生産財を全国経済に供給し,工業化と経済発展の基地の役割を果たしてきた。計画経済から市場経済への移行にあたって,制度的固定化と規制的枠組みを濃厚に持つこれら地域は,弾力性と機動性と自由な空間により適合的な市場メカニズムの導入や,産業構造の転換の必要性に機敏に対応することができず,国有経済の基盤が相対的に弱かった広東,福建,浙江をはじめとする華南,華中地域に大きな遅れをとった。今回の研究では,中国の有力な研究パートナー(東北財経大学)を得て,こうした東北地域のもつ特殊性についてかなり深く分析することに成功した。 東北地域では,国有企業を淘汰し,効率性を高めていくための国有企業改革と,その産業的基礎と人材をもとに外資との提携を強めていく開放政策の促進とは,他のどの地域よりも差し迫った課題となっている。そのためには,改革がもたらす転換期のさまざまな矛盾と摩擦を大きな社会的・政治的問題に転化する前に解決する政策的能力が要請される。また,そのためにも市場的環境を早期に整えなければならないが,その役割は実は私的セクターや中小企業の活力に負うところが大きい。大連に典型的なように起業的動きや企業家精神に富む新しい経営者も生まれている。しかし,国有経済の基盤が強ければ強いほど私的セクター発展の阻害要因(不合理な融資メカニズム等)も大きいわけで,ここでもまた政策の果たす役割が大きい。 この研究は日中共同の研究となったが,パートナーが日本の中小企業,中小企業金融,中小企業政策の系統的な調査を実施できたことは,上に述べた課題解決に対して大きな役割を果たすことが期待される。今後,端緒をつかめた東北内陸部の研究を深化させていく予定である。
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