超分子系でおこる長距離エネルギー移動や電子移動の重要な中間体には、複数の不対電子が2中心以上で存在し、系のダイナミックスを大きく制御する場合が少なくない。特に生体内反応や人工デバイス素子は多くの場合、金属イオンを含み、中間体の電子状態及びダイナミクスは不対電子のため複雑になると認識されるに過ぎない。本研究では多重項スピンをもつ超分子の励起構造とダイナミクスを量子化学と分光学的手法により解明することを目指している。 まず2ユニットからなるポルフィリンダイマーにおけるエネルギー移動と励起状態の緩和過程について、時間分解ESR測定により励起状態スピン間の相互作用の役割を明らかにした。一方に常磁性金属イオンをもつ銅(II)ポルフィリンと中心金属をもたないフリーベースポルフィリンを炭素鎖でつないだダイマーでフリーベース励起状態からスピン副準位選択的電子緩和が起こっていることを明らかにした。さらに液晶を媒体として配向依存性を測定し、2つのクロモフォア間のスピン-スピン相互作用による緩和のメカニズムを検証した。 また、比較的大きい分子系に適用できる電子相関を含んだ量子化学的手法として、時間依存密度汎関数法の金属錯体への適用を検討した。はじめにそのパフォーマンスを評価するため、数種の系について計算を行った。フタロシアニン、ポルフィリン酸の閉殻錯体では電子相関を含まないCIS法に比較し、励起エネルギーの改善が見られた。Head-Gordonらによる開殻時間依存密度汎関数法を基底4重項を持つCr三価錯体に適用したところ、求められた励起状態のS^2の期待値が大きく狂う場合があり、これに対する改善を検討している。
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