本研究では、インフルエンザウイルスの感染機構を分子論的に明らかにすることを目的とし、インフルエンザウイルスの膜融合フラグメントの生体膜中での配向と構造を明らかにする研究を行い、以下の成果を得た。 1.メリチンが膜を分断し融合する過程を強い磁場中で行ったところ、メリチンを含む脂質膜は磁場に対して膜面を平行に向けて自発的に配向することを見いだした。この磁場配向膜に結合したメリチンの化学シフト値からメリチンは全体に渡ってα-ヘリックス構造を形成しており、膜貫通状態であることが明らかになった。 2.インフルエンザウイルスのHA2におけるN端から27アミノ酸残基のフラグメントを合成し、脂質膜との相互作用について固体NMRを用いて検討した。この結果、フラグメントはN端でα-ヘリックスを形成し、さらに、酸性条件と中性条件では膜との相互作用に大きな違いのあることが判明した。 3.インフルエンザウイルスのM2タンパク質の膜貫通部分のフラグメント(M2-TMP)を合成し、このペプチドの膜に対する配向の状態について検討した。^<15>N化学シフト値を詳しく検討したところ、M2-TMPのα-ヘリックスはDOPC膜中では33度傾いており、DMPC膜中では37度傾いていることが判明した。 4.中性子散乱を用いて、インフルエンザウイルスの融合ペプチドの膜挿入について検討した。この結果、ペプチドのヘリックス軸は膜の垂線から55度傾いて膜の表面部位に挿入しているが、ヘリックス自身は膜表面に位置していることが判明した。
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