研究概要 |
数多くの生理学的信号に存在するとされる(有色)ノイズについては、その機能的役割がほとんど知られていない。本研究では、生理学的時系列データにみられるノイズが生体・生理調節システムに与える機能的役割を、ヒトの自律神経系および感覚,運動神経系調節との関連から明らかにし、同時にそのメカニズムについて理論的な考察を加えることを目的とした。 以下が本年度の実績である。 1.ヒトの頚動脈洞に存在する動脈血圧受容器に、空気圧制御によりノイズを印可できる装置を作成、ノイズ強度を変化させたとき、微細な体位変化による血圧低下を補償する調節系が中等度のノイズのもとに最適化されるという、`確率共振現象がみられることを本年度は主として血管運動性神経活動(筋交感神経活動)を中心に解明した。また、このようなノイズが循環調節系の閉ループ特性に与える影響にについての共同研究を、サウスカロライナ医科大、ハーバード大と実施した。 2.健常人の心拍数時系列にみられるマルチ・フラクタル性の成因について、ボストン大(物理)のグループと共同研究を行い、このようなマルチ・フラクタル性が、循環調節系に内在する神経性因子によることを実証した。 3.感覚・運動神経調節系に外部から印加したノイズがヒトの姿勢調節能力を改善し得るか、あるいは高齢者の転倒予防等の観点から、そのような小型医療機器が開発可能か、との点について、ボストン大(生体医工学)と共同研究を行った。 4.ヒトの活動パターンなどの神経行動学的データにみられるフラクタル性と心身症・精神障害との関連を調べるために、ニュージャージー医科大神経行動学部門との共同研究を行った。その結果、起立時に循環調節障害を頻繁に訴える慢性疲労症候群の患者では、立位時に循環調節系の神経性ゆらぎが大きく減少していることが示された。
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