研究概要 |
本研究の目的は,日本側で改良および拡張された超音波による生体細胞変形挙動の数理モデルを用いた周波数と変形振幅が可変の超音波発生装置を製作し,これを実際の生体細胞に作用させることで細胞破壊を行うことにある.共同研究の役割分担としては,日本側がこの細胞破壊の数理モデルの改良および拡張,ドイツ側が実際の装置の試作を行うことにある.国際共同研究という性格をふまえた上で,昨年度に引き続き以下のように本年度の成果を得た. (1)日本側の数理モデルを超音波が気泡が内包されている細胞や同じく気泡が内包されているマイクロカプセルに対して拡張し,内部中心に小さな気泡がある場合,気泡がない場合に比べて細胞やマイクロカプセルの壁が壊れにくいという結果を得た.これにより,細胞内の気泡によって細胞壁が壊される場合は,細胞内部の気泡の非球形振動およびマイクロジェットによる壁破壊が主な原因となることが考えられる.また,このモデルを拡張して,気泡が崩壊する状態にまで再現できる数理モデルを開発を行い,一部であるがその有効性が示された. (2)ドイツ側の装置開発に際し,超音波素子とその周波数可変のシステムが昨年度に引き続き問題となっており,今後は全体の細胞を破壊するデバイス開発とともにこの素子部分のさらなる改良が必要であることが明らかになった. (3)(1)に関する基礎的な研究として,マイクロカプセル近傍での気泡の変形及び崩壊挙動を,ゼラチン壁を使ったモデル実験を行い,壁の弾性,気泡の初期位置,超音波の作用による違いを観察並びに解析を行った.その結果,壁弾性により気泡崩壊の周期が変動すること,初期位置により振動から崩壊への過程が3つの形式に分類できることがわかった.さらに,音響インピーダンスの関係によっては,気泡崩壊後のマイクロジェットとその向きが変化することがわかった.これらより,今後マイクロカプセルの試作を行い,その内部での気泡変形と崩壊挙動を利用して,超音波バイオプロセスおよび超音波ドラッグデリバリーシステムの開発を国際共同で行っていく予定である.
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