研究概要 |
昨今,集束衝撃波結石破砕治療(ESWL)をはじめとして衝撃波の医療やバイオ産業への応用が行われている.医療の整形外科領域においては衝撃波を使って骨を一部破損させ骨を再形成する骨形成治療,薬物を併用した癌治療等に用いられている.衝撃波は,媒体を音速を超える速さで伝わる圧力変化の大きな波であり,(1)急峻な立ち上がりをもつ単発の不連続な波,(2)発生源にもよるが作用時間がμs程度と短い,(3)単位時間当たりのエネルギーの作用量が大きい,などの特徴をもっている.これらの特徴を生かした新たな応用技術開発が求められているが,超音波や衝撃波による細胞破壊機構が未だ未解明であるのが現状である.本研究ではその機構を解明し,その細胞破壊効率を高めるのが大きな目的である. 本研究グループでは,すでに衝撃波,気泡を用いた細胞破壊に関する研究を行っており,細胞内に気泡を封入し,これに衝撃波を作用させることで,バイオプロセスでの効率的細胞破壊法やDDS(ドラッグデリバリーシステム)への応用に向けてのシステム開発途上にある.そこで,流体計測を得意とするドイツエアランゲン大学・流体力学研究所と共同で超音波・衝撃波や気泡さらに比較のためせん断応力による細胞破壊の効率向上を目指し,以下の3つの点から研究を行った.すなわち,1.流れ場中のせん断応力(乱流)による細胞の破壊,2.衝撃波による細胞破壊の数理モデルの確立,3.気泡内包細胞に及ぼす衝撃波・超音波の作用のモデル解析の3つである.それぞれに関する結果として, 1.赤血球が乱流せん断応力場における破壊のしきい値が約1200-1400Pa程度であり,DDSへの応用を考えた場合超音波や衝撃波以外で破壊する応力の目安となった. 2.これまでの研究により開発されている球シェルモデルを改良し,水中における細胞に適した圧力波・細胞膜・内部構造の連成振動系モデルを1個の細胞の場合と2個の細胞の場合について検討し,膜厚やヤング率などの変形挙動に及ぼす影響を調べることができた. 3.1個の細胞内部に1個の気泡があるとしたときの圧力波による変形挙動をALE流体計算により解析し,内部気泡の非対称な変形ひいてはマイクロ・ジェットや大変形が細胞破壊に及ぼす影響が大きいことが明らかになった. 以上の結果より,これらの応力や超音波・衝撃波を用いて細胞及びマイクロカプセルの破壊率をコントロールできることが期待できる.
|