研究概要 |
本研究では、結晶性高分子超薄膜の物性を支配する超薄膜中で特異的な分子鎖凝集状態と分子運動特性を解明することを目的として、九州大学とマサチューセッツ大学の研究グループがそれぞれの専門を生かして共同研究を行っている。我々は、これまでに、アルキル鎖とフルオロアルキル鎖を規則的に主鎖に導入した脂肪族ポリエステル[O(CH2)iOCO(CF2)jCo]n(i=12,22,j=2,8,10)の一次構造と高次構造の関係を明らかにする目的で、バルク試料における分子鎖凝集構造を検討した。本年度は、バルク分子鎖凝集構造に関する知見を踏まえ、各ポリエステル薄膜の分子鎖凝集構造を評価した。薄膜は、各脂肪族ポリエステル試料をSiウェハー基板上、融点から過冷却度13Kの温度で等温結品化することにより調製した。原子間力顕微鏡観察及びクロスニコル下での偏光顕微鏡観察では、各ポリエステル薄膜が球晶構造を有し、ポリエステル結晶格子の特定の軸が球晶半径方向と平行であることが明らかになった。また、CF2連鎖長が増大すると球晶サイズが減少したことから、CF2連鎖長と一次核の形成頻度に相関性があることが示唆された。ポリエステル薄膜の多重全反射赤外吸収スペクトル測定から、CH2連鎖長が長いほど、あるいは、CF2連鎖長が短いほど、結晶領域におけるCH2連鎖はall-transコンフォメーションに近づきCH2連鎖間の凝集が顕著に起こることが明らかになった。このことから、CF2連鎖長は結晶領域におけるCH2連鎖におけるコンフォメーションの乱れの程度と関連すると考えられる。薄膜表面自由エネルギー及び薄膜表面領域のF/C値を静的接触角測定及びX線光電子分光測定に基づきそれぞれ評価した結果、低表面自由エネルギー成分であるCF2基が薄膜表面近傍に極在していることが示唆された。ポリエステル分子鎖は薄膜表面近傍で特異的な凝集構造を有する可能性があることが明らかになった。
|