研究概要 |
本共同研究では各種温熱・冷却治療に臨床利用可能な温度分布画像計測の確立を目指した.主に要素技術の開発と評価を行った平成11年度の結果に基づいて,平成12年度は代謝物質を内部基準とした温度分布画像化法をさらに検討した.超高速磁気共鳴分光画像化法を線状掃引型(LSEPSI)として,磁場不均一性に対する耐性を高めた.動物用の3T-MRI用プローブコイルの作製方法に工夫を加えて,コイル特性を改善した.これらの結果,20mMのクエン酸ファントム,10mMのNAAファントムにおいて,温度の分布とその時間変化を可視化できる自己参照型の温度分布画像化に成功した.さらにこのLSEPSIにより家兔大脳内部の温度分布を,NAA基準で画像的に計測することができた.脳内のNAA濃度は10mM程度であり,この程度の低濃度の物質であっても内部基準として利用可能なことがわかった.この内部基準法は画像間の引き算を不要にするため,撮像間の体動ならびに組織磁化率の変化の影響を低減するもととして大いに期待できる.またヒトボランティアにおいて脳内の水-NAA間のプロトン化学シフトを測定し,その値が脳内の位置ならびに個体によって0.05ppm程度ばらつくことを見出した.これは温度に換算して5℃程度の差となるがこのような温度差が生理的状態では考えられないことから,脳内での絶対温度分布計測は困難であることが示唆された. 以上より,本年度の研究により体動ならびに磁化率効果を低減できるところの,内部基準温度分布画像化法が実現された.昨年度から行った本研究全体としては,外部基準法・内部基準を合わせた臨床温度分布画像化法の基礎を確立できた.今後は両手法をさらに改善すると共に,それらによる臨床温熱治療器の制御,特定の疾患にターゲットを絞ったシステムの開発,ならびに腹腔臓器への適応のための体動補正手法の開発を行う予定である.
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