研究課題/領域番号 |
11694195
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
分子生物学
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 義一 東京大学, 医科学研究所, 教授 (40114590)
|
研究分担者 |
渡辺 すみ子 東京大学, 医科学研究所, 助手 (60240735)
|
研究期間 (年度) |
1999 – 2000
|
キーワード | RNA / ペプチドアンチコドン / ペプチド鎖解離因子 / リボソーム / 分子擬態 / 終止コドン / プリオン / リボソーム再生因子 |
研究概要 |
遺伝暗号の発見とtRNAによる解読機構の解明から40年余、3通りの終止コドン解読の仕組は今日まで謎に包まれてきた。この基本問題に対して、我々が15年を費やし、本研究の期間に見い出した結論は、解離因子と命名された制御タンパク質が、tRNAを擬態し、ペプチド製アンチコドンを使って終止コドンを識別するという仕組であった。ペプチド・アンチコドンの発見は、翻訳制御因子の結晶構造解析とも相まって、機能的ならびに構造的な視点からタンパク質とRNAという異なる生体高分子間の分子擬態という新しい概念を生み出した。さらにペプチド鎖解離後のリボソーム複合体の最終解離反応に働くリボソームリサイクル因子(RRF)の2.6Å結晶構造を明らかにした結果、2つのドメインから構成されたRRFタンパク質の構造はtRNAと酷似していることを証明することができた。2つのドメインを結ぶヒンジ部分は可動性をもち、その可動性や可動方向をアミノ酸置換により変異させると活性を増強あるいは低下させることが明らかになった。このように、形の上ではtRNAを擬態するものの、その作用はtRNAと異なるタンパク質の特性により行われていることも明らかとなり、分子擬態の機能的な深みが示唆された。 タンパク質によるRNAの分子擬態は、生物学における新しい概念であるが、生命がRNAワールドからタンパク質ワールドへと進化してきたことを考えれば、生命の基本原理のひとつかもしれない。その意味から、分子擬態の研究は、生命進化のプロセスをたどる貴重な糸であり、タンパク質やRNAの工学においても新たな分子デザインの扉を開くものと期待される。 さらに、各種の酵母の解離因子のサブユニットには、動物のPrPと同様なペプチドリピートがあり、プリオン様の特徴を示すというユニークな性質があることも本研究の過程で明らかになった。特に、Kluyveromyces lactis及びYarrowia lipolytica由来のeRF3プリオンには種間障壁を越えた感染性や感受性のあることが見い出された。これら種間障壁をこえた酵母プリオンの伝搬現象は、タンパク質コンフォメーションのプリオン変換機構の研究とともに、牛(狂牛病)からヒトへのプリオン感染の仕組を解析するためのモデルとして有用と考えられる。
|