研究概要 |
(1)ttx-1遺伝子の解析:温度走性異常(好冷性)を示すttx-1(p767)変異を、第5染色体上のunc-51とrol-9の間にマップした。また、YACクローンY113G7によりこの変異が相補された。しかし、米国Sengupta研究室からttx-1遺伝子をクローン化したとの連絡があり、以後の解析は中止した。(2)ttx-2遺伝子の解析:好冷性を示すttx-2(ks4)変異を第3染色体上のdpy-7とlon-1の間の領域にマップした。また、ttx-2の温度走性異常は、YACクローンY32H12を含む酵母の全DNA、コスミドW03A5及びW03A5の11kbのDNA断片によって、それぞれ不完全ながら相補された。しかしこの11kb領域に含まれる2つのORF W03A5.2+5.1,Y32H12A.8の欠失変異体を分離したが、その温度走性はいずれも正常であった。ttx-2遺伝子はYACクローンY32H12上にある他のORFである可能性があるが、まだ同定できていない(三谷昌平氏との共同研究による)。(3)温度走性行動の解析:薄い寒天平板上に、以前より急で、巾が広く、再現性のよい直線状の温度勾配を作成した。この上に、成虫の集団をおき、1時間後の分布域及びこの間の個々の虫の移動を調べた。その結果、野生型線虫は約10℃の広い温度域に分布した。この分布域は飼育温度に依存するが、虫を置く場所にはほぼ無関係であった。また、分布域の中においては、勾配上のどちらの方向にも平均して同じ頻度で移動した。しかし、分布域よりも高温側に置くと、低温方向に移動した。飢餓状態に虫を置くと分布は変化したが、飢餓に置いた温度を避けることは無かった。これらの結果は、エサと連関して飼育温度付近のせまい温度範囲に集まり、飢餓温度を避けるという以前の推測とは大きく異なり、C. elegansの"温度走性"が高温感覚と低温感覚のバランスによって制御されているという従来のモデルよりも、高温感覚のみによって基本的に規定されるという新しいモデルを示唆する。ttx-3,tax-2,tax-4,egl-4変異株では上記の温度に対する反応は異常であり、これらの遺伝子が高温忌避に関与することが示唆された。主要温度感覚ニューロンであると考えられてきたAFDは高温忌避において重要でないことが示された。
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