多くの生物の受精卵初期発生には、必ず母性型RNAから接合子型RNAへのRNA情報の転換があり、以降の発生ブログラムに重要な関わりを持つと推定される。我々は、マウスのある母性RNA(SSEC-DRNA)が受精後18時間(1細胞期後期)をピークとして一過的にそのmRNAのボリA鎖を伸長させ、その後分解されることを初めて見いだした。これを契機として本研究ではこの現象を分子レベル、遺伝子レベルで解明し、一般性を解析する事により受精後のRNA情報転換の分子機構を明らかにすることを最終目的とした。 3年間に以下の事を明らかにした。 1.SSEC-D RNAの3'末端の伸長はおそらくpoly(A)付加であること。 2.この伸長には新たなタンパク質合成が必要であること。 3.RNA検出技術の開発により、10-20個の卵又は胚でSSEC-D RNAの解析が可能なこと。 4.EGFP遺伝子を融合した種々の合成SSEC-D RNAの注入実験でも伸長が再現できること。5.伸長はSSEC-D RNA内の配列と3'末端のpoly(A)配列に依存していること。 6.3'末端のpoly(A)配列およびSSEC-D RNA内の配列が注入RNAの安定性と翻訳活性に影響を与ること。 7.伸長は卵母細胞に組み込まれた現象であること。 8.卵母細胞でも300-400ヌクレオチドのpoly(A)付加RNAでは翻訳抑制が解除されること。 9.Cordycepin添加実験から、注入RNAの翻訳にはpoly(A)付加反応が必要なこと。 10.Biotin-ATPを用いるトリックにより、同様の現象を示す母性RNAの系統的単離が可能なこと。 全貌はまだ明らかにはできていないが、マウス初期胚遺伝子の発現の全般的な特徴あるいは我々の対象時期以降の遺伝子発現と細胞分化の解析を進めている海外研究者との交流により十分な成果をあげる事ができたと考える。
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