ストレスから生体を防御し恒常性を保つためには、視床下部-下垂体-副腎(HPA)系が不可欠であり、その中心的役割を担っているのはCRHニューロンである。CRHニューロンにはバゾプレッシン(AVP)が共存し、CRHとともにHPA系調節に与っている。我々は無麻酔ラットPVN内に神経伝達物質ノルアドレナリン(NA)を注入後、CRHおよびAVPの一次転写産物をin situハイブリッド形成により半定量した。NAはCRH転写を速やかに刺激することが明らかとなった。その立ち上がりは極めて迅速であり、新たな転写因子の合成を伴わないプロセス(例えば転写因子のリン酸化による活性化など)が想定された。AVP転写に関しては、大細胞、小細胞いずれの領域においてもNAによる有意の刺激効果が認められなかった。大量のデキサメサゾン前投与により、ラット遊泳ストレスによるCRH遺伝子転写が抑制された。両側副腎摘出ラットに低用量コルチコステロンを補充し、PVN内NA注入後、CRHおよびAVP遺伝子転写レベルをsham群と比較した結果、生理量のコルチコステロンはCRH遺伝子よりもAVP遺伝子転写を強く抑制することが明らかとなった。従って、糖質コルチコイドの用量によってCRH遺伝子転写に及ぼす影響が大きく異なることが明らかとなった。また、CRH産生ヒト神経芽腫BE(2)-M17細胞系において、TPAによりCRH mRNA発現が増加したことから、CRH遺伝子発現におけるCカイネース系の関与が示唆された。
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