研究概要 |
スバルバール群島(北緯80度、ノルウエー領)にて、以下の哺乳類および鳥類を捕獲して血清および種々の器官(肺、腸、腎臓、生殖器等)を、高速液クロによるビタミンAの分析、および形態学的手法(塩化金法、ビタミンAの自家蛍光観察のための蛍光顕微鏡、透過型電顕、石井-石井鍍銀法、アザン染色、HE染色、SudanIII脂肪染色)によって解析した。捕獲した哺乳類はホッキョクグマ(3頭)、ホッキョクキツネ(8匹)、ヒゲアザラシ(6頭)、ワモンアザラシ(6頭)、スバルバールトナカイ(7頭)であり、鳥類はシロカモメ(22羽)、ウミガラス(4羽)、ニシツノメドリ(6羽)である。 高速液クロによる分析では、ホッキョクグマ肝臓が最も高濃度にレチニルエステル(23,300nmole/g wet weight)を貯蔵しており、ついでホッキョクキツネ(18,439±2,314)、ヒゲアザラシ(5,956±5,857)、ワモンアザラシ(1,551±2,486)、スバルバールトナカイ(921±264)であり、鳥類ではシロカモメ(4,710±3,164)、ウミガラス(1,589±225)、ニシツノメドリ(1,183±589)であった。塩化金法では肝臓星細胞が特異的に黒染し、蛍光顕微鏡下にこれらの細胞の脂質滴から強いビタミンAの自家蛍光が発していた。モルフォメトリーでは、透過型電顕で星細胞に含まれる脂質滴の占める面積は北極グマおよび北極キツネ、ヒゲアザラシでは有意に大きかった。すなわち、各々の星細胞のビタミンA貯蔵能が高いことが示唆された。北極圏の食物網の上位に属する哺乳類と鳥類は星細胞にヒトやラットなどの動物の20-100倍高濃度のレチニルエステルを貯蔵していた。ところがこれだけ高濃度のビタミンAを肝臓に貯蔵していても、他の器官にはほとんど貯蔵されていない。しかもこれら動物の血清中のビタミンA(レチノール)を高速液クロによって分析すると、ほぼヒトやラットと同じ値であった。これらのデータはこれら動物にはきわめてアクティブなビタミンA取り込み機構が肝臓星細胞に備わっていることを示唆している。
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