研究概要 |
α-フルオロアミノ酸構造の構築に関しては,ヒダントイン構造にα-フルオログリシンを組み込んだ形の一連のペプチド型化合物の合成法を開発し,この研究を新たな方向へと展開させた.サリドマイドやドネペジルに代表される,四級炭素部位がフッ素化された生理活性関連物質を合成する研究は,最終的にフッ素化サリドマイドおよびフッ素化ドネペジルの合成に成功し,更にはこれらの鏡像異性体の分離または不斉合成をも達成した.そこで両光学活性異性体の薬理学的検討し,初期段階の成果を挙げると共に,今後研究の方向に見通をつけることができた.また,光学活性モノフルオロ化合物を得るために計画した,求電子的不斉フッ素化試薬の開発研究は大きく前進し,現在ではN-フルオロチアジン系の有力な化合物を幾つか合成し,そのフッ素化能と不斉誘起能を精査する段階に来ている.副相変異性体の介在仮説を検証する研究は,3-フルオロオキシインドール類の一般的合成法の確立に成功したので,現在はこの研究の生体有機化学領域への展開を試みている.更に,制ガン作用を有する脂質のフッ素化類縁アルコール体の光学純度を決定するには,α-cyano-α-fluoro-(2-naphthyl)acetic acid (2-CFNA)が非常に有効なキラル誘導化試薬になることを示すことができた. 上記した研究の殆んどは,研究代表者のグループで行ったが,その成果をまとめるに際しては,海外の共同研究者からの助言とコメントを頂いた.なお,海外グループの成果としては,ブラジルのボエシャット博士の所で生理活性を探求するための含フッ素複素環化合物の合成,ハウフェ教授のグループは整理活性化合物のフッ素化類縁体を効率良く合成するための手法の開発,カーク博士のグループは2-および6-フルオロエピネフリンの合成を完結,佐藤教授グループでは新規に開発した抗炎症剤に生体内抵抗性を付与する目的で対応するフッ素化誘導体を合成するなど,多くの成果を挙げることができた.これらの研究を有機的に整理統合する目的で,竹内のベルギー派遣,ボエシャット博士およびフィリップス教授の日本招聘、ハウフェ教授のカーク博士の許への派遣などを,計画通りに実行した.
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