研究概要 |
本研究は、MDR1とMRPの同定、解析で常にこの分野をリードしてきたCole,Roninson,Beck,Borst博士らと協調して、【1】異物の排出に関与する分子実体を同定し、【2】その基質の認識と排出の機構、および【3】生理機能と発現調節メカニズムを明らかにする。さらに【4】疾病への関与を明らかにして遺伝子診断、ならびに治療法の開発へ役立てることを目的とする。3年間の本研究の結果、以下の成果を上げた。 【1】異物の排出に関与する分子実体として、cMOAT/MRP2とMRP3遺伝子を同定、単離した。さらに、遺伝性疾患のDubin-Johnson症候群の責任遺伝子であることを遺伝学的に証明することによって、cMOAT/MRP2蛋白質が第三相解毒系異物排出ポンプの実体であることを明らかにした。 【2】P-糖蛋白質の遺伝子MDR1遺伝子がヒトがんで発現亢進する特異的な分子機序について(1)MDR1プロモーターのCpGサイトのメチル化の有無、(2)ゲノム不安定性に伴う遺伝子再編成機構、(3)転写因子YB-1の核内局在による発現上昇を明らかにした。また、膀胱癌や急性骨髄性白血病、肺癌などの臨床腫瘍でいずれかの機構によりMDR1遺伝子の発現亢進を明らかにした。 【3】MRPファミリーのMRP2/cMOATならびにMRP3については、(1)遺伝子導入実験により抗がん剤ビンクリスチンやシスプラチン、エトポシドの感受性に関与することを明らかにした。(2)大腸癌ではMDR1,MRP3の発現は癌部にて発現の低下が認められたが、MRP2の発現は逆に亢進していることを明らかにした。(3)肝炎ウイルス感染患者ではMRP2の発現が有意に低下していることを示した。
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