研究概要 |
最初,海馬歯状回で見出されたシナプス伝達長期増強(LTP)は動物の学習,記憶の基本モデルと考えられており,脳の可塑性を示すものである。これまでの研究で,後シナプスニューロン内でCaMキナーゼIIが重要な役割を演じていることが明らかになった。私達は,実際にLTP誘導後にCaMキナーゼII活性を測定し,活性化反応を確認した。本年度は,LTP誘導におけるCaMキナーゼII活性化反応,プロテインホスファターゼ(PP)活性の変動を調べた。1)研究代表者は,ベルリン(ドイツ)で開催された第17回国際神経化学会議,台北(台湾)で開催された第8回Southeast Asia Western Pacific Regional Meeting of Pharmacologistsにそれぞれ出席し,またスウェーデン・ストックホルム大学を訪問,研究成果の発表,情報交換を行った。2)研究分担者・福永浩司,山本秀幸,研究協力者・竹内有輔はそれぞれ,マイアミでの第29回北米神経科学会,ベルリンでの第17回国際神経化学会議に出席,共同研究成果発表および情報交換を行った。また,福永浩司をスイス・ジュネーブ大学に派遣し,D.Muller教授との共同研究を行った。a)LTP誘導が長期に継続するには,CaMキナーゼII活性化反応が長く続くことが必要である。その一つの経路として,リン酸化CaMキナーゼII(活性型)を脱リン酸化するプロテインホスファターゼ(PP)活性の減少が考えられる。実際に,PP2A調節サブユニットのLTP誘導時におけるリン酸化反応と不活性化反応が確認された。さらに,in vitro実験で,ラット脳から精製したPP2Aは,CaMキナーゼIIによってリン酸化され,調節サブユニットのリン酸化反応が確認された。b)NMDA受容体と相互作用し,PDZドメインを持つNE-dlgについて調べた。本蛋白質もまた,LTP誘導時にリン酸化されることがわかり,そのリン酸化反応の性質と機能的意義について解析中である。
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