研究概要 |
家兎海馬歯状回で見出されたシナプス伝達長期増強(LTP)は動物の学習,記憶の基本モデルと考えられており,脳の可塑性を示すものである。LTP誘導は,後シナプス膜に存在しているNMDAグルタミン酸受容体活性化反応によって,Ca^<2+>が細胞内に流入し,主として,CaMキナーゼII活性化反応に基づき,AMPAグルタミン酸受容体燐酸化反応による活性化反応によって惹起されると考えられている。一方,LTP維持は,遺伝子発現の刺激,蛋白質合成の増加が必要とされるとみなされている。本年度は,LTP維持機構を調べるために,mitogen-activated protein kinase(MAPK),CaMキナーゼIV活性化反応,CREB燐酸化反応およびc-Fos発現について検索した。1)研究分担者・福永浩司,笠原二郎は,ニューオリンズで開催された第30回北米神経科学会に出席し,共同研究成果発表および情報交換を行った。2)海外研究協力者・D.Muller,T.R.Soderling両教授を研究代表者が主催し福岡市で開催した第7回日本生化学会春季シンポジウム(International Symposium on Neuronal Signaling and Protein Phosphorylation-Dephosphorylation)に招聘し,共同研究成果発表および情報交換を行った。3)海外研究協力者・A.A.DePaoli-RoachおよびP.Roach教授を,仙台市で開催された第4回国際プロテインホスファターゼカンファランスに招聘し,共同研究成果の発表および情報交換を行った。研究代表者は,海外研究協力者が出席したシンポジウム,カンファランスに参加し,共同研究成果を発表した。LTP誘導には,CaMキナーゼII活性化反応,LTP維持には,CaMキナーゼII活性化反応だけでなく,MAPK,CaMキナーゼIV活性化反応を必要とし,遺伝子発現と蛋白質合成の増加が必要であることが示唆された。いかなる内因性蛋白質発現が増加するかを明らかにするのは今後の課題である。
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