本研究では主に次の2つの研究を遂行した。すなわち、(A)ヒト癌抗原エピトープの同定と、(B)これら抗原エピトープの細胞内プロセシング、提示機構と免疫学的腫瘍エスケープ機構の解析である。 その結果、(A)では1)アポトーシス抑制性に働くIAP(inhibitor of apotosis proteins)であるサバイビン由来HLA-A24拘束性2Bペプチド、リビン由来L7ペプチドが多くの癌細胞で発現し、正常細胞には発現なく、従ってCTL(cytotoxic T lymphocytes)の理想的な標的抗原となることが明らかにされた。2)同様に正常では網膜にのみ発現するが、他方50%以上の様々な腫瘍で発現するリカバリン蛋白由来HLA-A24拘束性R49.2ペプチドも乳癌患者等で、腫瘍免疫の標的になることがテトラマー解析等を用いて明らかにされた。さらに、3)滑膜肉腫特異的染色体転座産物SYT-SSX由来HLA-A24拘束性BペプチドもCTLの標的になることが明らかにされた。 他方(B)では抗原ペプチドの提示機構の研究では細胞内で抗原ペプチドとhsc70分子シャペロンとの結合性が小胞体転送、MHC class I結合性とに強い相関性のあることが明らかにされた。逆にhsc70と親和性のない抗原ペプチドは小胞体転送効率は低かった。このことは癌ワクチンの候補を選定する際に大変重要な指標を与えるわけであり、また、hsc70と結合性の弱いものはclass Iとの会合もなされないことを意味し、このことは腫瘍のエスケープ機序のひとつを説明するものと考えられ、重要な知見であると考えられた。
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