研究概要 |
繊維性I型コラーゲン(CL)はその受容体であるα2β1インテグリンを介して血管平滑筋細胞(SMC)の増殖を著明に抑制する。今回suppressive subtraction hybridization法を用いて、単体CLと比較して繊維性CLにより24時間後に調節される遺伝子群を同定した。繊維性CLにより抑制される遺伝子群として、1)細胞外マトリックス(fibronectin,tenascin-C,thrombospondin-1,Cyr-61など)、2)細胞骨格蛋白(filamin,α-actininなど)、3)情報伝達物質(calmodulin,Ca-independent phospholipase A2など)、4)蛋白合成関連蛋白などがクローニングされた。Cyr-61などの遺伝子は繊維性CLにより、増殖因子と全く異なったmRNA発現調節を受け、細胞外マトリックス特異的な遺伝子発現調節機構と考えられた。また繊維性CLにより発現が抑制された遺伝子の多くが、ラット頚動脈傷害により誘導されたことより、これらの遺伝子はSMCの形質変化と深く関連することが予測された。fibronectin,thrombospondin-1は蛋白発現、細胞表面への沈着も抑制されていた。thrombospondin-1はαvβ3インテグリン依存性のSMC遊走を促進したが、繊維性CL上で24時間培養したSMCにおいては、この作用が阻害されていた。繊維性CLは、接着斑へのα-actininの集積を抑制したことから、繊維性CLはα-actininの発現抑制を介してαvβ3インテグリン依存性のSMC遊走を抑制する可能性が示された。これらの結果により繊維性CLは細胞外マトリックスの発現、沈着、その機能を総合的に調節し、SMC形質変化に深く関与するものと考えられた。
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