平成11年度国際学術研究(大学間協力研究計画)[=基盤研究(C)(2)]の課題にもとづき"少数ロマンス語の現地調査"により、従来の主要言語中心のロマンス言語学をより充実させることを目標に、本年度も主として以下の調査研究(期間7月31日〜8月30日)を実施した。 8月前半期は少数ロマンス語の中心的存在をなすサルジニア語の調査を昨年度に続き行った。他のロマンス語に比してラテン語の要素の保存率がはるかに高いヌーオロ市(ロゲドーロ方言)を中心に、現地の言語学者ピタウ名誉教授(サッサリ大学)と情報交換しながら、アラビア語の影響についても論じることができた。また『ルカ伝』のサルジニア語訳を通じて文学話の文法構造にもアプローチする機会に恵まれた。さらに周辺の地域(オリエーナ、ドルガーリ、サムゲオほか)において口蓋化、鼻母音化などの傾向を検討した。なお、本年は8月5日(土)、サルジニア島の北東部に位置するブルネッラ市の2000年度ミルト酒祭において、研究代表者にその『サルジニア語基礎語彙集』のイタリア語版の出版(州都カリアリ、2000年7月)を記念してミルト金賞が贈られたこと、そのニュースは島の新聞インタビュー、国営テレビ(RAI)の全国版ニュースなどでも報道されたことを報告しておきたい。 8月後半期は、ローマ大学の言語学者(現在文部大臣)デ・マウロ教授と「イタリア語のロマンス語的展望-若干の音声・形態・統語論的特質に関して」と題するテーマを中心に、意見交換を通じて論文の作成に努めた。なお、このテーマについては第34回イタリア言語学会国際大会(クルスカ学会およびフィレンツェ大学、10月19日〜21日)において発表し、他のロマンス諸言語にみられる歴史的変化の多くがイタリア諸方言のなかにも繰り返し観察されることに注目すれば、イタリアはロマンス語圏の縮図ともいえる存在をなすことを、母音体系から文法事象(未来形など)にいたる資料を提示しながら主張し、多くの参加者の賛同を得ることができた。
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