研究概要 |
近年国際宇宙ステーションの建設に代表されるように,有人宇宙活動がますます盛んになってきているが,このような微小重力環境での燃焼現象は未解明の部分が多い.特に,宇宙船のような閉鎖空間での火災発生は乗員の生命に直接危険を及ぼすため,着火や伝播といった現象に対しての解明が求められるが,微小重力環境においては,自然対流が存在しないため,燃焼現象は地上と大きく異なる.本研究では,代表的なポリマー試料としてPMMA(Polymethylmethacrylate)フィルムを用いて,熱的に薄い材質上を伝播する火炎について,試料厚さ,対向流速,雰囲気酸素濃度などをパラメータとして伝播速度の測定を行ない,理論計算と比較検討を行なった.その結果,比較的速い自然対流の存在する通常重力場と比較して,微小重力場においては対向流側の現象とともに地上に比べて火炎伝播が抑制されることが,実験的に明らかになった.この原因として,火炎に向かってくる流れの速度が小さくなると,火炎から周囲へのふく射損失が相対的に増大し,最高温度が低下することによって温度拡散と物質拡散のスケールにギャップが生じることが挙げられる.本実験においても,火炎が燃料蒸気に包まれ消炎していく様子が捕らえられ,理論予想の結果を支持している.また,対向流側が非常に小さい場合でも,火炎伝播速度がもともと速い材料においては,微小重力環境においても通常重力場に比べてさほど違わない火炎伝播速度を有することが明らかになった.上に述べた,ふく射消炎は火炎と周囲ガスとの相対速度が小さい場合に生じるため,非常に薄くもともと燃焼速度が大きい試料に対しては,十分な酸素の供給があるためと考えられる.
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