研究概要 |
海洋哺乳動物の皮下脂肪はn-3系高度不飽和脂肪酸に富み,魚油と同様の生理機能を有すると期待されている。そこで、アザラシ皮下脂肪の有効利用を行なう際に問題となる酸化安定性を検討した。 北大西洋産アザラシの皮下脂肪層から抽出した液状油をケイ酸カラムクロマトグラフィーで精製した。蒸留水にこの精製油を10%添加してTween20存在下で超音波処理を行い,o/wエマルジョンを調製した(O/W区)。精製油はバルク油として対照区とした。45℃における酸化安定性を以下の指標で評価した。ハイドロパーオキサイド(HPO)はdiphenyl-1-pyrenyl phosphineを用いるフローインジェクション蛍光検出法で定量した。チオバルビツール酸陽性物質(TBARS)はブタノール溶液中で試料と反応させた後,逆相HPLCで分析した。吸収酸素量はバイアル瓶に封入した試料のヘッドスペース空気をGLCで分析した。 45℃6日目まではエマルジョン区、対照区ともに酸素吸収量は1%以内であった。HPOおよびTBARSはどちらも徐々に増加した。しかし,HPOは0/W区よりも対照区で増加が著しかったのに対して、TBARSは逆の関係を示した。すなわち,精製アザラシ油の一次酸化生成物であるHPOはエマルジョン系では蓄積しにくいがバルク系では反対に蓄積しやすいことを示している。一方、HPOはエマルジョン系で分解してTBARSに変化しやすいことを示している。このような油の置かれた系の相違に基づく性質の違いは,アザラシ油の利用を考えるうえで重要な示唆を与えている。
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