研究課題
石綿にはセルペンチン系とアンフィボール系のものがあり、後者の石綿は肺癌や悪性中皮腫の原因になることが広く認識されているが、前者のクリソタイルにもアンフィボール系と同様の発がん性があるのか否かについて、合意が得られていない。そこでこの問題に解答を与えるために、昨年度クリソタイルのみを用いてきた中国の石綿工場において、1977年に開始されたコホート調査の結果を解析し、環境測定を追加して肺癌や中皮腫による過剰死亡があるか否かを調べ、クリソタイルの発がん性について調査を行った。その結果は、クリソタイル石綿のみでも肺癌と中皮腫が非常に高い相対危険度(RR)で発生することを示していた。しかもここで得られたRR値は生涯曝露量から考え、既に報告されたクリソタイルはもちろんクロシドライトばく露作業者での値より高かった。しかし、現在の石綿曝露量も非常に高いとはいえ、以前ははるかに作業環境が劣悪で現在以上に高濃度の石綿に曝露していたと思われる。従って、今日の測定値で生涯曝露量を推定すると石綿の影響を過剰評価している可能性はある。現在この結果をAm J Epidemiology誌に発表準備中であり、さらに本研究の過程で発見された悪性中皮腫について症例報告として別にとりまとめを準備している。すなわち、研究対象コホートの中に胸膜中皮腫と腹膜中皮腫が各一例あり、特にその一例は作業者としてのばく露期間が僅か4年間であった。当該工場では労働者の住宅は工場敷地内にあり、特に以前は作業者が石綿を家に持ち帰り、子供が手で紡績をして家計を助けていた。上記症例はこうした子供時代からのばく露が関与していると考えられたものである。今後、ベトナム等他の石綿ばく露集団でこの結果を確認する計画のもとに、ベトナムから研究協力者を招き現地の状況と予備的な調査状況の報告を受け、またホーチミン近郊とハノイ近郊の工場の予備調査を行った。
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