研究概要 |
本研究の目的は、従来ばらばらの関心から進められてきた歴史的研究のいくつかを結び付けて、分析哲学草創期の議論の様態を解明するための新しい視点を提供することである。具体的には、ラッセル、ムーアやウィトゲンシュタインら、ケンブリッジの新実在論における議論の構成を解明することを目標とした。その際、彼らの批判と論争の対手となった、マイノングの対象理論に代表されるグラーツ学派と、ブラッドリーの絶対概念論に代表される英国ヘーゲル主義という、二つの学派に焦点を絞り、ケンブリッジの分析哲学の成立に当たって、その二つの学派に対してどのような論陣が張られたのかを歴史的に解明するとともに、それら二方向の議論が共有している議論の構造を概念的・論理的に究明して、新実在論の基本的な問題構成を明らかにしようとした。 初年度は、主にマイノングの対象理論における論理思想と、それに対するラッセルの批判を検討した.マイノングの難解な理論については、現代論理学の成果を取り入れて、それを見通しの良いものにしようとする試みが繰り返されている。まずRichard Routley,Exploring Meinong's Jungle and Beyond,1979,Australian National U.や、Terence Parsons,Nonexistent Objects,1980,Yale U.P.や、Dale Jacquette,Meinongian Logic,1996,de Gruyter、Jacek Pasniczek,The Logic of Intentional Objects : A Meinongian Version of Classical Logic,1998,Kluwerでの試みを通覧し、マイノング理論の再構成としての適切性を吟味した。そうした作業を踏まえて、記述理論という、初期の分析哲学において典型的な技法となったラッセルの理論が、それが提唱されるに当たって、マイノングの対象理論からどのような影響を蒙り、また対象理論のいかなる部分を乗り越えたのかということを見積もった。
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