今年度は昨年度に引き続き、紀元前6〜5世紀ギリシアにおける"哲学"の成立について、ヘラクレイトスとパルメニデスを検討しつつ、クセノパネスを中心に成果をまとめた。まず、古代ギリシアにおける「詩の伝統」を再検討し、そこでは後世哲学と批判的に対置されるような「フィクション」ではなく、「真理を語る」ことが目指されていたこと、並びに、各詩人が競争意識のなかで互いを批判しつつ詩作を発展させていった様が浮かび上がった。クセノパネスは、自ら詩を作り歌うことを生業としていた点で伝統的な詩から出発したが、詩人が「神の視点」を取ることの意味を「神とは何か」をめぐる先行詩人の批判において徹底させ、それを通じて「真理を語る」ことへの認識論的考察を成立させた。この意味で、クセノパネスは、詩の伝統から出発して、それに内在しながら、その内部から詩を打ち破る哲学の思索を開始した人物と位置づけられる。「箴言」の形で語ったヘラクレイトスや、詩の序説で女神から真理を授かるという語り口で思索を開示したパルメニデスにおいても、従来のような「詩と哲学」の単純な対立ではなく、詩の言語においてそこから哲学的の言葉(ロゴス)を成立させる営みが始められたと結論づけた。このような考察をつうじて、従来「ミュートスからロゴスヘ」という単純な発展図式で捉えられがちであった初期ギリシアにおける哲学の成立について様々な問題点を指摘し、それを乗り越える「理性主義プログラム」と呼ぶべき歴史像を提案した。その成果は、科学研究費補助金、平成11〜12年度、奨励研究(A)報告書「古代ギリシアにおける"哲学"の成立の研究-ソクラテス以前哲学者を中心に-」にまとめた。
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